今日は20年ほど前の本ですが、トレードの良書の1冊を紹介したいと思います。
その本題に入る前に少し意地の悪い話をします。ご存知かと思いますが、トレードで儲ける方法には2つあります。ひとつはトレードで純粋に勝つ事です。これはそれなりにスキルや経験、能力が必要で一見容易く見えますが、実際には非常に困難な事です。もちろん不可能ではありません。
もう一つは「トレードで勝つ(と自称する)」もしくは「便利なやり方」を売る方法です。それらは例えばシステムトレードの自動売買プログラムであったり、投資法の秘密が書かれたマニュアルだったりします。それら大半の謳い文句は評判倒れである事が多く、販売者のみが利益を上げることとなります。もちろんそうしたモノとは一線を博すトレーディングをサポートしてくれる便利なツールも世の中には数多くあります。
今回の本は、実際にトレードで勝ち稼ぎたいと思っている人、そしてそうした人々に何かツールなどを売りつけて一儲けしたいと思っている人(推奨はしません)、どちらにも役立つ一切です。
目次
概略
今回の1冊はパンローリング社から出版されている「トレーディングシステム徹底比較 ラーズ・ケストナー (Lars N. Kestner) 著」です。この本はパンローリングの本の中でも地味で正直あまり存在感の無い本だと思います。実際派手なタイトルがついているわけでもなく、むしろタイトルだけではよく内容がわからず、加えて古く、また高額です。
きっと一度見かけた方も、そういった理由からほぼスルーしていて、さらに記憶にも残っていないでしょう。でもこの本、実は目立たないですが重要なデータが多数掲載されています。
この本の内容は、著者の手法や考え方が延々と書かれている本ではなく、基本的にとあるシステムのバックテスト結果やそれを行ったプログラムのソースコードが掲載されています。
書籍の内容
先ほど、とあるシステムと書きましたが、具体的には他の著名トレーダーの書籍で紹介されている手法についてです。例えばそれは、タートルズの手法であったり、デマーク、ワイルダー、バーンスタインなどの手法であったりします。
それら著名トレーダーの手法の有効性について、実際のデータについて検証し、その結果をあるがまま載せています。それぞれの検証は、為替市場から、米株、商品先物など、およそ30市場で行われています。データは各市場の過去15年のデータを用いています。
また日本版には、ケストナーが行った上記の検証の他に、日本市場での各手法の検証結果も付録(といっても165ページもありますが)として掲載されています。そこでは例えば、日経225やTOPIXでの結果も掲載されています。
また特筆すべきは、検証を行ったプログラムのソースコードが全て掲載されている事です。これはつまり現在のデータでも再度検証が行えるという事であり、また有名な手法のソースコードが丸々手に入るという事でもあります。
書籍の感想
著名なトレーダーの本を読むと、毎回それなりに納得し、読破した後は「この手法で勝てる!」と思うことも度々あるでしょう。でもこの本を見ると、有名な書籍で紹介されている手法であっても、そうした手法の多くが機能しない、有効性が無いという事に気付かされます。
また一方で機能する手法もあるので、それを元に自身のトレードスタイルを発展させる事ができます。
一点面白い点としては、全く機能しない結果となった手法も、実は役に立つ可能性があるという事です。その部分は本書から引用してご紹介します。
さらに、戦略の成績が哀れなくらい悪いなら、その損益曲線をひっくり返せば、ルールを正反対にしたときのシステムの成績になるはずだ。
P15「手数料とスリッページについては一切考慮していない」より
要は役に立たない手法は反対売買(買いシグナルなら売りを、売りシグナルなら買いを行う)で使える可能性があるという事です。もちろん一般的な反対売買はうまくいきません。その事は下記記事やその中の「反対売買がうまくいかない理由もコレです」の部分で詳細に触れていますので確認してみてください。
しかしこの本では、前作後の反響からの熟考で、「手数料とスリッページについては一切考慮しない」事を著者のケストナーが選んだ事が、逆に反対売買が機能する利用になっています。
つまりこの本の結果には、手数料が一切加味されていない為、それは純粋な損益の結果であり、反対売買を行えばほぼ反対の損益が出ることを示します。(もちろん最終的な反対売買の損益から合計の手数料を引く必要があります)
この本で得られるもの
この本を読むことで、例えば以下の様な内容を得ることができます。
トレーディングシステム徹底比較のメリット
トレードスタイルを確立する上では、ベースとしてどういったシステムを利用するかの判断に利用できます。またソースコードがあるので、それをTradingViewやMT4などに移植し、さらなる検証やそこからの発展を行う事もできます。
また各システムのソースコードがあるので、何かツールを作って売りたい人には、それらは役立つでしょう。もちろん各言語への移植は必要です。
「トレーディングシステム徹底比較」はトレーダーズショップ で入手できます。大型本ですのでコンパクトな方が良い方は、AmazonでKindle版を手に入れる方法もあります。
面白くは無いですが、役立つ本です。ご興味のある方はぜひどうぞ。
コラム「トレードで本当に勝てる方法を売るわけがない?」
よく一見矛盾だとする話として、「トレードで本当に勝てる方法を売るわけがない」という事があります。言い分としてはトレードで稼げるのだから売る必要が無いでしょうというものです。これは半分正解で、半分誤っていると言えます。
確かにトレーディングで勝っている人間からすると、その手法をまとめたり、ツールにするというのは、研究や自己利用でなければ、正直無駄な時間の浪費に近く、また実際に諸々面倒だったりするので、積極的にやろうとは思わないのは確かです。
一方で、勝っている人間は、相場でより多くの経験を積んでいます。それには大相場や大敗の経験も当然あります。そうした経験から、過去、そして今勝っていたとしても、今後勝ち続けられるかには一抹の不安があり、また市場は何が起こるかわからないという意識も常にあります。
正直な所、収入源はいくらあっても困りませんから、自身の手法を売ること自体は普通にあり得る話です。またいくら手法を売っても、資金量や経験の違いから、買い手が売り手と全く同じトレードを行うというのは不可能なので「知りたければどうぞ」という意識も勝っているトレーダーにはあるでしょう。
一方しかし物を作って売るというのも、そう簡単ではなく、作る時間や手間だけでなく、売る方法や、そして売ったあとの責任を考えると腰が重くなります。自身の考えをまとめて売る、ここまではいいですが、例えばアフターサポートをする事まで考えるとやりたくないと思う気持ちになります。
例えば本業はあくまでトレードであり、それに比重を置きたいわけですから、1から10まで手取り足取り教えるといった事は基本的にあり得ないですし、それはいくらお金をもらっても無理と答えるでしょう。